培養上清 治療事例

  • ALS(筋萎縮性側索硬化症)

筋萎縮性側索硬化症 ( Amyotrophic Lateral Sclerosis : ALS )に対する治療薬として認可されているのはリルテックⓇ(グルタミン酸拮抗薬)内服およびラジカットⓇ注(フリーラジカル消去薬)の点滴のみです。これらは活性酸素やグルタミン酸の過剰説に基づいて創薬されたものですが、いずれもALSの進行を止めることはできません。現在開発中の薬剤として、国内では肝細胞増殖因子(HGF)(東北大学)、抗がん剤・「ボスニチブ」(京大)ドパミン作動薬・「ロピニロール」・(慶応大)海外では「tofersen」(米バイオジェン)SOD1-ALS治療薬として迅速承認2023/4、「AMX0035」(米Amylyx社)、
抗炎症剤「MN-166」(メデイシノバ社)、HIV治療薬「OBP-601」(オリコス・バイオファーマ社)があります。
いずれもエンド・ポイントは病気の進行を遅らせることに置かれています。

またALSに対する幹細胞治療の報告は、
造血幹細胞(Deda, H. et al.: Cytotherapy, 2009)
骨髄由来間葉系幹細胞「NeuroNata-R」(韓国で承認2015)
骨髄由来間葉系幹細胞(札医大)
脂肪由来間葉系幹細胞(Shigematu,K.et al : Eur.Rev.Phamacol.2021)
ミューズ細胞(LSII社、2021)
神経栄養因子分泌間葉系幹細胞「NurOwn」(BrainStrom社/2021)があります。

ALSに対する幹細胞治療は有効あるいは無効とする論文が混在し、評価が定まらない状態でしたが、2020年英国の調査会社Cochrane Library はALSに対して行われた151件の幹細胞治療を有効性、安全性、実現可能性などの観点から分析し、「ALSの治療法として骨髄由来間葉系幹細胞の使用を支持しない」としました(C.M.Gabriella.,NeuroRehabilitation,2020)。
ALSに対する幹細胞治療に逆風の吹くなか、幹細胞が分泌するさまざまな生理活性物質(セクレトーム:secretome)に注目が集まっています。セクレトームとは幹細胞の分泌する生理活性をもつ分子の総称ですが、具体的にはサイトカイン、成長因子、ケモカイン、細胞外小胞(エクソソーム)、細胞外基質(ECM)などをさします。これらすべては幹細胞の培養液から細胞成分、代謝沈殿物をのぞいた「培養上清の中」に存在します。セクレトームのどの成分がALSに特効性を有するかまだ不明ですが、BNDF,GDNF,IGF-1,VEGF,HGF,Siglec-9, miRNAなどいくつかの生理活性物質が有効成分として同定されています。これら特定の生理活性物質だけでよいのか、培養上清中のすべての生理活性物質が必要なのか不明です。
しかし共通する作用としては以下のものが考えられます。
・神経保護作用
・アポトーシスの抑制作用
・グリア細胞からの神経栄養因子の分泌促進作用
・酸化ストレスの中和作用
・マクロファージのM2極性転換作用(抗炎症物質の遊離)
培養上清は上記の作用を惹起する成分をすべて含んでいることから、われわれは、2021年1月よりALSに対して乳歯幹細胞由来の
培養上清(Conditioned Medium)を用いて、ステム・セル・フリー治療(Stem
– Cell – Free Therapy )を実施しています。以下にわれわれが行ったALSに対する培養上清の臨床的研究の概略を述べます(表1)

ALS(筋萎縮性側索硬化症)

「臨床研究の適応基準」
・通院が可能であること(要介護でも可)
・主治医(大学病院/基幹病院)の協力がえられること(データの提供・後方支援ベッド)
・標準治療(エダラボン、ラジカット)との同時併用は原則不可
・理学療法士・訪問看護士の協力がえられること
・重症度1か2がのぞましい(重症例を排除するものではない)
・60歳未満が望ましい、患者本人と随伴者(配偶者・二親等以内の成人・任意後見人)の同意が得られること

「臨床研究の対象」
症例数:5、年齢:42歳~81歳、性別:女性1名、男性5名
重症度:2~5、ALSRS-Rスコア:11~43、
「治療の概要」
培養上清、投与期間:8~12週(3~9か月)MABEL法で安全係数10~20として算出しました。
「臨床研究の結果」
ALS症状の変化はALSFRS-Rスコアをもとに評価しました。表1に追跡調査が可能であった6例の結果を示します。
その結果、改善:2例、進行停止:1例、増悪:3例でした。なお有害事象による点滴投与の中止はありませんでした。

「ケース・レポート」
症例5;中等症例
「患者」
46歳女性、左手の脱力と歩行時のふらつきを指摘され、1年後にALSと診断されました。診断後、リルゾールⓇ とエダラボンⓇ を開始したが効果が乏しく、15 ヵ月後に SHED-CM 治療を目的に当院に入院しました。眼球運動異常はなかったが、嚥下障害、舌萎縮、筋弛緩を認めました。上腕二頭筋、上腕三頭筋、上腕筋の腱反射が亢進し、足底筋、小指筋の萎縮がみられました。感覚障害や膀胱・直腸障害は認められませんでした。
ALSの改訂版機能評価尺度(ALSFRS-R)は18/48点でした。
「治療と予後」
SHED-CMを週1回点滴投与しました。初診時の総合得点は18点、月次得点は23点、24点、24点と改善傾向にあります。治療前は上肢を持ち上げるのがやっとでしたが、初回治療後、上肢の近位筋と遠位筋の筋力が向上し、手関節と肘関節の自動関節可動域が拡大しました。膝の上に置いた洗い桶に自分で手を入れることができるようになりました。3回目の治療の翌日、37℃の微熱が出ましたが、症状が軽かったので経過観察していると、自然に回復しました。座位時間も改善されました。治療前は寄りかかるように座っていましたが、治療後は椅子の端に20分程度座れるようになりました。治療前は立ち上がるのに他者に頼ることが多かったのですが、治療後は筋力が向上し、他者に頼ることが少なくなりました。治療前は寝返りが打てなかったが、5回目の治療で自立できるようになりました。8回目の治療後、37.5℃の微熱が出ましたが、自然に回復しました。治療期間中、大きな副作用は認められませんでした。3ヶ月間、計12回の治療を受け、現在も治療を継続しています。

症例6;重症例
「患者」
68歳、男性、テニス中にラケットをしばしば落とし握力の低下などを契機に専門病院を受診、ALSと診断されました。その後、患者は専門病院に転院し、経過が観察されていたが症状の進行は止まりませんでした。
患者がSHEDCMによる治療を希望したため、関連病院を紹介されました。
患者にはALSの特徴的症状がみられました。とくに呼吸機能の低下は深刻で、2ヶ月間に%肺活量 66.5%から46.1%となり、また四肢痙縮が著しく、病状が急速に悪化していることを確認しました。
「治療および経過」
治療開始時の重症度は5でした。はじめにSHEDCMの点鼻投与を8ヶ月間行いました。この間、症状に変化はなく、呼吸機能が低下し(室内気、Spo2<90%、四肢痙縮が進行しました。)
そこでSHEDCMの点滴投与を開始しました。SHEDCMの点滴治療開始後1週で、四肢と手指(とくに親指と小指)に痙縮の緩和および自動的な関節可動域の急速な拡大がみられ、その後も自動運動と呼吸機能の改善が続いています。約2年間のSHEDCM投与期間中、局所的、全身的な副作用は認められず呼吸機能、血液データともに正常域を保っています。この間の体重変化を図1に示します。SHEDCMの点滴投与後、月ごとに回復しています。体重は点滴治療はじめてから目に見えて増え、今では治療前と比べると8kgも増えました。体重の増加は筋肉量が増えている事を意味しています。

治療開始前とSHEDCMの点滴投与を3ヶ月行った後に運動可動域を測定しました。
表2にこの患者の治療前とSHEDCMの3ヶ月投与後の運動可動域を示します。

他動的可動域とは他人が手をそえて動かすことが可能な範囲を意味し、自動的可動域とは患者の意思で動かすことが可能な範囲(随意運動) を意味します。可動域の測定法は関節を軸として回転する、あるいは手指を角度として評価します。計測のため関節角度計(角度計(神中氏)松吉医科器械)を用いています。
表2の数字は角度を示します。「前」の数字は治療前に上記の方法で計測した関節可動域、「後」はSHEDCMを3ヶ月投与後の関節可動域を示します。例として「肩の屈曲・伸展」の場合、垂線の位置を0度として前方向が正、後ろ方向が負の数字です。患者の右腕は、治療前は前方向に30度の位置で強直していました。SHEDCMの3ヶ月投与後は手を添えれば50度の位置まで動くようになりました。
腕の回外・回内については上腕が垂直になった位置(体側に平行)が0度、内方向に回転していれば負の数字で、外方向に曲がっていれば正の数字とします。治療前、患者の右腕は垂直の位置(0度)から内方向に35度回した位置で強直していました(-35度)。SHEDCMの3ヶ月投与後は手を添えれば30度外方向に動かすことができました(-5度)。測定した全ての項目において、患者の可動域は、SHEDCMの3ヶ月投与後は治療前に比べ大きくなりました。
患者の呼吸機能は室内気、Sp02>97%であり、改善が認められました。なおこの患者は現在もSHEDCMの点滴投与を継続しており運動可動域はさらに改善し、長座位が可能になりました。
「考察」
臨床研究の結果より、培養上清(SHEDCM)の静脈内投与が安全に行えることが確認されました。また短い観察期間(約3か月から18か月)でありましたが、重症例1例で症状の進行停止および改善が、中等症1例で症状の著明な改善がみられ、2例で疾患の進行が停止しました。最も重要なことは、全症例で、治療終了後でも患者が生活の質の改善を自覚していたことです。今回の結果はALSに対するSHEDCMによる培養上清治療が有効であることを強く示唆しています。

● より詳しい「ALS」の培養上清治療にご興味のある方は「コラム:実教授の再生医療外来 」( 会員登録 ) をご覧ください。 → こちら

以下の臨床成績は国内外の学会あるいは国際誌に発表され高い評価を得て存続しています。
名古屋大学の上田実名誉教授の長年にわたる研究や臨床経験により立証されたエビデンスは SAISEIKEN独自のプロトコルにより厳格に管理・抽出された印の培養上清液のみ有効です。
培養上清治療について詳しくはお問い合わせください。