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2022/11/29

【 研究速報 】国際科学誌(Cytotherapy)に論文を投稿いたしました。

SAISEIKENは以下の論文を2022/11/23に国際科学誌(Cytotherapy)に投稿しましたのでご報告します。

アルツハイマー病(AD)は認知症の約70%を占め、世界で毎年約1000万人が新規に発症し、2030年には約7600万人、高齢化の進む日本では約800万人に達するといわれています。有効な治療法はなく、ADは現在においても家族、介護者の支援ケアが中心で大きな社会問題となっています。

ADの原因はほとんどわかっていませんが、病理学的な特徴は、脳にアミロイドβタンパクが蓄積し、シナプス障害と神経細胞の減少の結果、脳が萎縮します。脳の萎縮は海馬付近からはじまり、やがて脳全体に広がります。そのため症状は電話番号が覚えられないなどの短期の記憶障害に始まり、やがて認知機能全体が消失します。

ADの原因として有力な仮説として過酸化脂質の中和障害やアセチルコリンの減少、グルタミン酸の過剰説があります。そのためこれらに拮抗する効果を持つコリンエステラーゼ阻害剤、グルタミン酸拮抗薬が症状の緩和を目的に使用されていますが効果は不明です。

こうしたなかSAISEIKENは超音波培養法を開発し(特許番号:特許第7125818号の要約)、高機能の乳歯幹細胞由来培養上清の作成に成功しました。この新規の高機能培養上清には神経の再生に有効な多くの生理活性物質が含まれています。実際に20名のAD患者さんに高機能培養上清を使用したところ8週間の点鼻投与で、明確な治療効果が表れました。論文にはこれらの詳細が記載されています。

 

【 論文タイトル 】

「超音波培養法で作成された乳歯歯髄幹細胞由来培養上清を用いたアルツハイマー病の症状を改善する」

 

【 要旨 】

超音波 ( ultrasound またはultrasonic )とは人の耳には聞こえない高い振動数をもつ音波で、その振動数は20KHz以上と定義されている。

超音波は指向性が高く、簡便で安全であるため、高分解能を求められる様々な分野で応用されている。探査装置としては魚群探知機(ソナー)がよく知られているが、医学分野では胎児検査、腹部検査、心臓検査、乳房検査, 血管検査、超音波内視鏡など数多い。また治療目的で超音波を骨折治療に応用したり、集中超音波を使って前立腺癌、胆石、脳血栓の除去もおこなわれている。

超音波のもつ特筆すべき作用は細胞の遺伝子発現を簡便に調節・制御できることである。この特性を利用した遺伝子操作はすでに実用段階にあり、細胞工学を飛躍的に進歩させた。細胞は超音波刺激を感知し、これらの刺激を生化学的なシグナルに変換し、安全に細胞修復経路やカルシウムシグナル伝達経路を活性化する。つまり超音波を応用すれば細胞の機能を自在に制御できることを意味している。そのため超音波技術が再生医療の実現のために導入されるのは当然の帰結であった。

ところで2000年代の初頭、世界保健機構(WHO)は、科学世界が緊急に取り組むべき最重要の研究課題のひとつとしてとしてアルツハイマー病( AD: Alzheimer’s Disese )の治療法開発をあげた。

世界のAD患者は2030年には7600万人、2050年には1億3500万人に達する。ADでは、脳にアミロイドβ蛋白というタンパク質が蓄積し、神経細胞が減少し脳が萎縮していく。 ADには有効な治療法がなく、大きな社会問題となりつつある。

こうした状況のなか、従来の医療技術では治療困難な疾病に対する新技術として、幹細胞を利用した再生医療が登場した。幹細胞治療(Stem Cell Therapy)は、全ての難病にとっての新しい臨床プラットフォームにおける有望なツールになると期待され臨床応用に向けた数多くの研究が行われた。ADなどの難治性神経変性性疾患は、幹細胞治療の適応がもっとも期待された疾患であった。

幹細胞治療では静脈内に幹細胞を投与する。それらは、損傷した臓器にホーミング(目標を自動追尾して帰還するという意味)し、細胞増殖を促進し炎症を抑制する活性分子を分泌して臓器を再生する、と考えられた。

幹細胞治療でもっとも一般的に使用された細胞種は間葉系幹細胞( MSC : Mesenchymal Stem Cell)であった。MSCは骨髄,脂肪,歯髄、臍帯組織から容易に採取でき、培養で増殖し、静脈注射によって患者に移植することができる。 MSC はある程度免疫特権を持っているようで 、同種細胞を使った多くの臨床試験でヒトでの安全性が実証されている。実際、ADをはじめとして多発性硬化症や 1 型糖尿病における免疫調節、心筋梗塞や肝硬変後の組織再生などの用途に MSC を使用した登録済みの臨床試験は 100 件以上に上る。しかしこれら試験の結果は必ずしも満足すべきものではなく、幹細胞治療は有望ではあるが、改善の余地がたくさんあるというのが大方のみかたである。 MSCを使った幹細胞治療が遭遇した最大のハードルは、静脈内に投与されたMSCが標的臓器に間違いなく到達する能力である。 しかし現実はMSC が静脈内に注入された場合、ホーミングが非効率的であるため、最終的に標的組織に到達するのは投与された細胞全体の数パーセントにすぎない。 別のハードルは、MSC が損傷した組織に到達して、十分な量の再生因子を分泌する能力である。こうした幹細胞の能力を高めるためにさまざまな手段、たとえば外因性の刺激、温度、低酸素培養などが検討された。その結果超音波刺激が安全性、有効性と深部到達性、などの点でもっとも有利な方法と考えられた。

一方、幹細胞を用いないStem-cell-free therapyでも大きな進展があった。われわれは幹細胞の培養上清(中でも乳歯髄幹細胞)を培養することによって得られた培養上清がADマウスの記憶回復効果、神経系細胞の神経突起伸長誘導効果及びアポトーシス抑制効果を有することを発見した。

培養上清治療では高機能の培養上清の作成が治療成功のカギを握っている。

幹細胞の分化を容易に制御しうる超音波培養法は培養上清の高機能化のもっとも適切な方法である。

本研究では超音波刺激をうけた乳歯髄幹細胞を用いて作成された培養上清(高機能培養上清)を用いてアルツハイマー型認知症の治療を行い症状の著明な改善をみたのでその概要を報告する。

 

(2022.11.23 Cytotherapy投稿中 )